『地獄が呼んでいる』のNetflix版ドラマシーズン1とコミック版『地獄』(1,2巻)のネタバレ考察です。用語解説はこちらをご覧ください。
このドラマを視聴し終わった、もしくはコミック版『地獄』を読了された方向けの内容ですので、まだ見終わってない方は、ブックマークして後でお読みになることをおすすめします。
Netflix『地獄が呼んでいる』の新規性
『イカゲーム』に続く韓国ドラマのヒット作『地獄が呼んでいる』。この作品は何が新しいのでしょうか。
地獄が呼んでいるのヨン・サンホ監督は『新感染 ファイナル・エクスプレス』で大きな注目を集めた監督です。この作品は、ゾンビ映画であり、ゾンビ映画は「感染」という脅威が描かれています。感染の脅威はコロナ禍という形で現実にも起きました。
今回の作品で描かれるのは、超常現象によってもたらされる「予告される理不尽な死」です。
「予告される理不尽な死」といった理解不可能で抗えないものに直面したとき、人々は「理解しやすい説明」に飛びついてしまう、という問題を描き出しているのがこのドラマです。「理解しやすい説明」とはつまり宗教です。
監督はこの理不尽な死を「天使」と「3人の圧倒的な力を持つ怪物」によっておこなわれるものとしてビジュアル化しました。
この地獄からの使者は必ず3人セットで出現するんですが、その理由についてヨン・サンホ監督は11月16日の製作発表会見で
「『集団リンチ』が恐怖のキーワードだと思います。少数の人間に対する集団リンチを“集団”として感じさせるための最小人数は何人なのか? と考えたところ、3人程度かなと。2人だとバディのようなので、3人はいなきゃいけないんじゃないか? と思いました」
引用 https://www.cinematoday.jp/news/N0127220
とアイデアの源を明かしています。
リンチ=私刑とは、法に基づかず勝手に行われるものであり、この作品では、特に近年加速しているネットリンチのことを指しているのでしょう。
そしてこの法律に基づかない「ネットリンチの脅威」をビジュアル化することに成功した、という点がこの作品の面白さのひとつであり、新しさだと考えます。
数多くのゾンビ映画が作られたのと同様、今後この作品の表現を起点にしながら、ネットリンチという脅威に対する映像化がいろいろなクリエイターの手によって試みられるのではないかと思います。
韓国ドラマ『地獄が呼んでいる』物語の全体像・構成
まず、この物語は大きく2部に分かれています。
Netflixドラマ版だと
第1話〜第3話が第1部で2022年の出来事
第4話〜第6話が第2部でその4年後2026年の出来事
となります。
Netflixで公開されたのが2021年11月ですから、非常に近い未来のことを描いています。第一部に関してはほぼ「現在」だと思ってもよいでしょう。
1部と2部で大きく変化しているのは、新真理会の議長です。
1部は初代議長チョン・ジンスで、「試演」は神の意図によっておこなわれているという新真理会の考え方の基礎をつくります。
2部になると2代目のキム・ジョンチル牧師に代わります。彼はもともと『未来宗教』という宗教関連の冊子を作っていました。そのインタビューで初代議長のチョン・ジンスと会ったのです。
そのインタビューは2004年におこなわれたものでチョン・ジンスは、自分が告知を受けた、とその体験を語っています。
キム・ジョンチルの説明によれば、チョン・ジンスが議長の座を私に譲った、ということになっています。
しかしこれは推測ですが、キム牧師はチョン・ギンス議長が天使からの預言(告知)を受けたことを知り、その後の新真理会の拡大をみて、その座を自分に譲れと脅迫したと考えるのが自然ではないでしょうか。
また、ミン・ヘジン弁護士をおびき寄せて殺すというアイデアも、キム牧師が勝手に考えたものではないかと思われます。
キム牧師は2代目議長の座につき、まずはより強大な力を持ちたいと述べています。その目的を達成するためにはミン弁護士が邪魔だったのでしょう。
『地獄が呼んでいる』に込められたメッセージ
『予告される理不尽な死』は罪人を裁くために神がおこなうものだ、というこじつけをおこない、組織を急拡大させた新真理会と矢じり。
物語が第2部に入ると、警察やメディアまで新真理会にこびへつらう世の中となってしまっています。
人は考えるのをやめ、リンチをおこなっている神にただただ恐怖するばかりです。
罪人の罪も、だんだんショボくなっているにもかかわらず、人々はそれに気づけなくなってしまっています。
そしてついに、生後数日の新生児に対して、告知がおこなわれるのです。
これによって人々はようやく、告知による死は、その人の罪とは関係なかった、ということに気づきます。
神の意思などなかったのです。
理解不能で抗えないものに直面したとき、人々はそれが神の意思だと思いこもうとします。しかしそれは、単にそう思い込んでいるだけで、事実とは違うのです。
このドラマは神を信じることによって思考を放棄する人々の姿を描き出し、最後はその問題に気づきはじめる人が現れるところで終わります。法と武器と組織といったあらゆる手段を使って戦うソドのミン弁護士は、その問題に気づき、自ら考え、動き始める人の象徴だと言えます。
地獄が呼んでいる、のコミック版は最後、タクシー運転手の以下のようなセリフで締めくくられます。
「私は神のことはよくわからないが、人間の世界は人間が独自に作るもので、そこでもし人が死ぬのを見たら人を生かす事を考えるのが人ですよね」
人が理不尽な目に遭っているのであれば、我々人間は立ち上がらなければならない、というメッセージです。
このドラマのテーマのひとつである「リンチの脅威」という理不尽にも立ち上がって欲しいという意味が込められているのではないでしょうか。
『地獄が呼んでいる』シーズン2は?
コミック版とNetflix版は、登場人物の性別が違ったりという設定変更はあるものの、概ね同じような話の流れとなっています。(コミック版の方がやや描写が細かいですが)
ただ、とても大きな違いがひとつあります。
それはNetflix版の最後に付け加えられた4年前に試演で実行者に殺されたパク・ヨンジャが復活し再び動き出すシーンです。
これはコミック版にはありません。
つまりこれは、シーズン2につなげるためのシーンとしてNetflix版を制作する際に付け加えられたもの、ということになります。
ヨン・サンホ監督のインタビューによれば、すでに続編のストーリーは作り始めており、来年下半期にコミック版を発表、映像化はその後考える、とのことです。
つまり、シーズン2はすでに構想されている、ということですね。
神の裁きを受け死んだはずの人が復活しどうなっていくのか? 死んだはずの者が動きだす…といえばゾンビがそうですが…シーズン2がどうなるのか、これはとても楽しみです。
地獄が呼んでいる のコミック版『地獄』
Netflixの映像版
地獄が呼んでいる | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
※この記事はNetflixドラマ『地獄が呼んでいる』とコミック版『地獄』を視聴した上での解釈と推測を含む考察であり、正確ではない場合があるということを前提にお楽しみください。
『地獄が呼んでいる』登場人物一覧
チョン・ジンス議長:男性、新興宗教団体「新真理会」の教祖。信者には議長と呼ばれている
チュ・ミョンフン:男性、36歳。劇中初めて「実行者」に殺される
チン・ギョンフン刑事:ソブク警察署の刑事。巡査部長。新興宗教団体「新真理会」についての調査を任される
ホン・ウンピョ刑事:刑事。ギョンフンの相棒
実行者:天使の告知(預言)に基づいて決められた時間に3人で現れ、対象者を地獄に送る。見た目は黒いゴリラのようで圧倒的な力で殺人をおこない、白い熱線で死体を焼き尽くした後、空間に消える
天使:突如現れ死の日時を告知(預言)する。天使の告知に基づき実行者が現れ地獄に送る。新真理会はこれを神がおこなっているものとする
チン・ヒジョン:女性、ギョンフンの娘。ボランティアで新真理会を手伝っている
ミン・ヘジン弁護士:女性、弁護士。ソド法律事務所に勤める。「矢じり」の被害者に寄り添う存在。「矢じり」の起こしてきた犯罪について詳しい
パク・ヨンホ弁護士:男性、弁護士。ソド法律事務所に勤める
パク・ジョンジャ:女性、38歳、屋台を営む
パク・ウンユル:ジョンジャの息子。13歳
パク・ハユル:ジョンジャの幼い娘。6歳
キム・グァンジン:小説家。預言と天罰の実行について懐疑的な意見を持っている
キム・チャンシク:ギョンフン刑事の妻、ヒジュンの母を殺した犯人
イ・ドンウク:骸骨野郎とも呼ばれる。矢じりを扇動するライブ配信者。新真理会の熱心な信者。TEENTOK TVというライブ配信サービスでリアルタイム配信をしておりネットLIVEを通し人々をアジテートする
VIP:新真理会に多額の寄付をしていると言われている。白い仮面をかぶって実演の場に現れ、最前列でその様子を見物する
キム・ジョンチル牧師:男性。未来宗教という冊子を発行している
ぺ・ヨンジェプロデューサー:男性。NTBCというテレビ局のプロデューサー
カン・ジュンウォンプロデューサー:男性。ペ・ヨンジェの先輩
ソン・ソヒョン:ヨンジェの妻。
トゥントゥン:コミック版ではトゥントゥニ。生まれたばかりのヨンジェの子供の愛称。韓国語で「丈夫な子」という意味。新生児向けの集中治療室に入っている
ミスク:女性。NTBCの映像編集者
ユジ執事:男性。新真理会の人間
サチョン執事:男性。新真理会メンバー。矢じりと連絡をとりあっている
コン・ヒョンジュン:男性。韓国大学社会学教授。ソドのメンバー。テレビでコメンテーターを務め、告知され姿を消す人を擁護している
キム・ヨンソク:男性。スーパーの酒売り場で告知を受けた
『地獄が呼んでいる』に登場する団体・場所
新真理会:チョン・ジンスが2012年に作った新興宗教団体。漫画版では新真理の会と訳されている
矢じり:漫画版では矢じり団と訳されている。ネットに前科のある人の情報を漏らしている団体。新真理会の熱狂的な教徒で構成されている。オンラインだけではなくオフでも犯罪を起こしている
ユルヘ児童養護施設:チョン・ジンス議長が育った養護施設。今は廃墟となっている
ソド:告知を受けた人が新真理会に見つかる前に姿を消す手伝いをしている
『地獄が呼んでいる』で使われている用語
神の意図:新真理会の経典。天使による告知と実行者による死は神の意図だと説いている
告知・預言:「天使」により死ぬ時間が宣告されること
試演:告知を受けた人間が実行者により殺害されること。日本語字幕では「実演」と翻訳されている
完成:告知と実行が繰り返されることにより世の中が良くなり完璧に近づくこと。新真理会の用語